これは、僕が中学生だった時に実際に体験した話です。

宿題で使う教材を学校から持ち帰るのを忘れてしまい、

しかし翌日どうしても提出しなければならなかった僕は、

夜の学校に忘れ物を取りに行きました。

開いているか不安でしたが、警備員さんがいたので、

事情を話して中に入れてもらいました。

ただでさえ怖い夜の学校。

懐中電灯をつけて歩く、という怪談や肝試しでよくある演出とは無縁で、

蛍光灯をパチン、パチンとつけて、必要最低限の電気を灯して教室に向かいました。

 

無機質な蛍光灯の光は、怪談じみた怖さを取り払ってくれるかのように思えましたが、

電気がついていない暗闇に視線をやると、何か出てきそうで嫌な気分になりました。

 

普段明るくてザワザワと騒がしい学校だからこそ、

シンと静まり返って、自分の足音だけが響くのが怖く感じました。

 

早く忘れ物を取って帰ろう。

そう思い速足で教室に向かいました。

 

教室に辿りつきドアに手をかけ、中へ入りました。

そして自分の机の引き出しから忘れ物を取り出した時でした。

 

微かに、本当に微かに、何かが僕の耳に聞こえてきました。

僕が発したわけではない、不自然な音が。

 

それはすすり泣きのようでした。

 

スン・・・スン・・・

 

と、すすり上げるような音で、僕は一瞬身体を固くし、周囲を見回しました。

 

しかし、誰もいません。

ただ、何か僕以外の気配のようなものをうっすらと感じたような気がしました。

 

ここで耳を傾ける事なく教室からさっさと出れば良かったのですが、

神経質になっていた僕は、耳をそばだててしまいました。

 

すると・・・

 

イタイ・・・やめて・・・

コワイよ・・・

 

という呟き声が聞こえました。

ハッキリと、ではありません。でも、空耳ではなく、

確かに何かがそう呟いたのを、僕は聞きました。

 

女の子の声でした。

 

僕は一目散に教室から飛び出して、家に帰りました。

 

気もそぞろに宿題だけやり、布団に入ったものの、なかなか眠れません。

このまま眠れないかもしれない・・・と思ったのですが、

どうやら知らない間に眠っていたようです。

 

翌朝母親に起こされて、ぼんやりした頭で昨夜の事を思い出しました。

ふと、左手首にズキンとした痛みを感じました。

 

なんだろう。

そう思って痛む左手首を見ましたが、特に外傷はありません。

 

変な寝方でもしちゃったかな・・・

 

僕はそう思い、学校へ出かけていきました。

 

学校に着いて教室へ向かおうとした時、保健の先生に呼び止められました。

「酷い顔色だけど、大丈夫?」

 

特に自覚が無かった僕は、おそらく昨夜あまり眠れなかったせいじゃないかと思い、

「寝不足かな、大丈夫です」とだけ返して教室へ向かいました。

 

教室に入ると、昨夜の事がフラッシュバックし、冷や汗が流れました。

誰かに話してしまいたい、という衝動が湧き上がってきました。

話してしまえば自分の中の恐怖や不安は幾分か少なくなるように思ったのです。

 

しかし僕は昨夜あった事を、この教室内で話す気になれませんでした。

なんだか、すすり泣きをしていた女の子に聞かれるとマズイような気がしたからです。

結局誰にも言わずに授業を受けていたのですが、

ズキズキと痛んでいた左手首の痛みが更に酷くなってきたような気がして、目をやりました。

すると・・・

赤いミミズ腫れのような模様が浮かび上がっていたのです。

それは、まるでためらい傷のようでした。

しかし僕は勿論そんな事はしないし、大体この傷は勝手に浮き上がってきたものです。

 

やはり昨夜何か霊的なものと遭遇してしまったんだろうか・・・

そう思った僕は怖さと不安を感じましたが、

騒ぎ立てるわけにもいかず、ぐっと耐えました。

 

そのためらい傷のようなものは、その日のうちに引いて痛みも無くなりましたが、

気になった僕はクラスのオカルト好きな女子に、

昨夜あった事だけを話して何か知っているか聞いてみました。

 

すると、その子が小さい声で「大きい声じゃ言えないけど、

この教室、昔ひどいいじめのせいで手首を切って亡くなった生徒がいたらしいよ・・・

その子なんじゃない?」と教えてくれました。

 

僕はそれを聞いて確信しました。

そして、こっそりと、教室で声を聞いた方向に手を合わせました。

 

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事